2010年


記事タイトル一覧 曲名(管理者が感想を書いたものだけ)
10年3月24日  特別企画公演(国立能楽堂)    (感想) 新作能『野馬台の詩』
10年3月22日 塩津哲生の會 特別公演(喜多六平太記念能楽堂)  (感想) 仕舞『西行桜』『弱法師』、『白髭・道者』
10年3月20日  梅若研能会(観世能楽堂)    (感想) 『敦盛』、狂言『口真似』、『羽衣・和合之舞』、『春日龍神』
10年3月19日  定例公演(国立能楽堂)    (感想) 狂言『土筆』、『西行桜』
10年3月14日  月並能(宝生能楽堂)    (感想) 『西王母』、狂言『歌争』、『三山』、『土蜘』
『染の美』展(銀座かねまつホール) (報告)
10年3月7日 粟谷能の会(国立能楽堂)    (感想) 『定家』、狂言『入間川』、『鞍馬天狗・白頭』
10年3月3日  定例公演(国立能楽堂)    (感想) 狂言『文相撲』、『雲林院』
10年2月21日  代々木果迢会別会(観世能楽堂)   (感想) 『屋島・弓流・奈須与一語』、狂言『佐渡狐』、『卒都婆小町・一度之次第』、『恋重荷』
10年2月7日  高安ルーツの能鑑賞会(横浜能楽堂第二舞台)  (感想) 仕舞『井筒』、『弱法師』
10年2月7日  企画公演「英雄伝説 義経」第5回(横浜能楽堂)   (感想) 『摂待』
第十一回 いけだ薪能
10年2月3日  定例公演(国立能楽堂)    (感想) 狂言『節分』、『朝長』
10年1月30日  特別公演(国立能楽堂)    (感想) 『咸陽宮』、狂言『右近左近』、『碁』
10年1月17日  金春会(国立能楽堂)    (感想) 『小鍛冶』、狂言『佐渡狐』、『楊貴妃』、『角田川』
10年1月11日  梅若研能会(観世能楽堂)    (感想) 『翁』、狂言『佐渡狐』、『熊野』、仕舞『草子洗小町』『西行桜キリ』、『岩船』
10年1月10日  自主公演能(喜多六平太記念能楽堂)    (感想) 『翁』、狂言『筑紫奥』、『羽衣・霞留』、仕舞『草紙洗小町』、『船弁慶』
10年1月6日  定例公演(国立能楽堂)    (感想) 『邯鄲・置鼓』、狂言『餅酒』、
公演情報等


10年3月24日  特別企画公演(国立能楽堂)    (感想)



10年3月22日 塩津哲生の會 特別公演(喜多六平太記念能楽堂)  (感想)
2010-04-01 04:21
仕舞『西行桜』友枝昭世

「見渡せば」と抑えて謡い、立つと老人の物腰。
ゆったりと雲が流れる様なふんわりとした舞なのに、キリリとした気配も有って美しい。


仕舞『弱法師』香川靖嗣

「見えたり」と『角』に出、「満目青山は」と見渡して、手を胸に当てる様にすると、ハッと思い当たった感じが良く伝わる。
「今は狂い候はじ」と杖を横にして持ち、がっくっと両手をつく姿は男っぽくて、りりしい『弱法師』だった。


『白髭・道者』塩津哲生・井上真也・佐々木多門・長島茂・宝生欣哉・大日方寛・御厨誠吾・山本東次郎・山本則孝・加藤孝典・荒井豪・水木武郎・山本凛太郎・山本則重・山本則直・平田悦生・山本修三郎・松田弘之・観世新九郎・亀井忠雄・観世元伯

左右に燈台のついた“一畳台”に“小宮”をのせる。
ワキ・ワキツレは颯爽とした『次第』、「九重の空も」からしっかりとして、安定した謡。
シテ・ツレはとてもゆっきり登場。ゆったりとたゆたう様な『一セイ』。
静かな『サシ』、さらり目の『上歌』と綺麗な謡が続く。
静かな『問答』は何気ない老人らしい雰囲気が良く、「瑞垣の」とどっしりとした地謡で、ツレは『地謡前』に座り、シテは『角』に立つが、その姿は高貴な気配。
「生まれあふ身はありがたや」でシテは『正中』に座る。
地謡『クり』はしっかり目にさらり、シテ『サシ』は静かで、「大聖釈尊」とどっしりとした地謡が続き、「この南瞻部洲を」と抑え目にたっぷりで美しい。
地謡『クセ』はどっしり→しっかりと、とても綺麗だが、謡が若い雰囲気なのは微妙。
「まさに見たりし」とシテはワキの方を向くと老神の風格が有って良いが、地謡はやはりもう少し。
地謡「浄瑠璃世界の」とさらり目で、「その時の翁も」とどっしりと納まったのは良く、シテも爽やかに神々しい感じで良い雰囲気。
地謡「夕べの」からはとても抑えていて、シテの謡いに合わせた型は、ゆったりどっしりと迫力が有って、シテは“小宮”の中へ。

アイは『道者』の小書なので、内容を簡単に書くと…
勧進の聖が、通りすがりの道者たちに寄進をせまろうと、舟を出している(ワキ座側)。
そこに道者と船頭が登場。「清水詣でを志して候」と“舟”を出して乗る(目付柱側)。
聖は「あれに道者の舟が見える」と追いかける様子で舟を漕ぐ。。東次郎さん上手過ぎです。。
追いついた聖は寄進を迫り、道者たちは、持ち合わせがないと断る。。
問答を繰返し、怒った聖は竿を置いて祈ると、鮒の精が現れる。。凛太郎くんでしたが、所狭しとクルクルと動き回るのがとっても可愛いい!
道者は驚き、着ていた衣を脱いで寄進する(向こうの舟に向かって投げたのですが、届かなかったのも竿を使って巧みに回収してました)。
鮒の精は喜んで去る。というもの。
所要時間33分。普通に狂言を一曲楽しんでしまった気分でした。

『間狂言』直後の地謡は気分を引き締めなきゃいけないところだが、いまいち纏まりにかけ、シテの謡で戻れた感じ。。
「神の御姿」とゆっくりと『引廻し』を下ろして、シテが登場、以降どっしりと、老神らしい荘厳な気配。
“作り物”を出ると、ゆったり、どっしりでもメリハリが有る『楽』。雅楽の様にはっきりと踏み込む様な動きも、周囲を見渡すような気配もとても綺麗。
「面白や」とどっしりなシテに続いて地謡もどっしりと安定して、「天燈龍燈の来現かや」とシテが『橋掛リ』に向かって『雲の扇』をして、“小宮”に戻ると、『出端』で天女の登場。
天女が“小宮”の前に立つと『早笛』で颯爽と龍神の登場、二人は灯明を手にしていて、それを燈台に置くと、『舞働』(相舞)になる。
天女はゆったりと美しかったが、龍神はちょっと躊躇うような動きが…どうもこれは囃子が間違ってたみたいだけれど。。
最後は抑えて綺麗な地謡で、天女と龍神が帰り、シテは「明けゆく空に」と左袖を巻き上げつつ『正先』に出、右袖も巻き上げて、両手を挙げたままゆっくりと常座に移動し、「神風」と回りつつ袖を戻して『ヒラキ』、『留拍子』と重厚感を失わず爽やかな締めくくりで、長さを感じさせない良い舞台だった。


余談ですが、解説中に『尉面』の話が有って、三井寺の「新羅明神」の顔が『皺尉』の面にそっくりだと言っていた。三井寺展で見た時に、そんな事思わなかったなぁ。。と思ったのですが。。似てる??
「新羅明神」の画像→http://www.nhk.or.jp/nichibi/weekly/2008/1123/



10年3月20日  梅若研能会(観世能楽堂)    (感想)
2010-03-29 04:31
『敦盛』八田達弥・長谷川晴彦・梅若久紀・古室知也・舘田善博・大藏基誠・藤田次郎・古賀裕己・亀井広忠

ワキ『次第』以下静かで、無骨な感じが元武士という雰囲気を出している。
「我、一の谷に」と暗く、思いを巡らす感じで、座ってしっとりと祈る様子がとても美しく、「や。」と笛の音に気付くと気分が変わった感じがして良い。
はどっしりと静かな『次第』、シテ『サシ』もどっしりで、やや重いかも。。
静かな地謡でツレは地謡前にシテは常座に移動し、ワキの問いに「こなたの事にて」とワキの方を向いて答えるのも、威厳が有り過ぎる…有って良いのだけれど…ここで正体を明かしちゃいそうな感じがした。。
シテ「さん候」からさらり目で、シテ・ツレ「草刈の笛」と静かにたっぷりと綺麗な謡。
ワキ「いかに申し候」と自然な感じで、シテ「何の故とか〜来たりたり」は、しっかりで良いが、「十念授け」は強すぎるというか…上から目線な感じ。。
シテは『正中』に行って、ワキ、シテと順に合掌して「若我成仏」と静かな雰囲気が良く、落ち着いた地謡で、シテは常座に行ってワキの方に振り返り、「その名は我と」と『サシ込みヒラキ』が優しく、「姿も」と右に回ってゆっくりと中入する姿が綺麗。

後シテ『一セイ』はしっかりだがさらりと若々しく、「いかに蓮生」と強めに言うのも、「現の因果を」とワキの方を向いて「現われ来りたり」と『ツメ』るのも控え目で、貴公子らしい上品なイメージ。
「深き罪をも」と静かで、「友なりけり」とゆっくりと『ツメ』るのは救いを求めるような切なさが有る。
ワキの方に寄って、「御身の事か」と左袖を返して、ワキの方に決める姿はかっこいいけれど、主張しすぎる気がして、他流みたいに『ヒラキ』の型の方が良い気がする。。型なので仕方ないけれど。。
シテが床几にかけると、地謡『クリ』抑え目でもはっきりで、シテ『サシ』はしっかりと、続く地謡はどっしり、『クセ』は静かに美しい。
シテは「誠に一昔の」で立ち、「臥して」と『胸ザシ』する姿が憂うる感じ。
「うしろの山風」と『角』を向きつつ『上扇』や、「我が袖も」と袖を返して膝をつくなど、謡いに合わせた型はゆったりと可憐で素晴らしい。
シテ「さても二月六日の」と思い起こす風で、舞は初めゆったり堂々と、平家の公達らしく、少し憂いも含んだ感じで、次第に力強くなる変化も良い。
「さる程に」としっかりの謡でさっと舞台を廻って『一ノ松』に行き、「御座舟も」と左袖を返して『雲の扇』も勇ましく、また『橋掛リ』に行った事で出来る距離感が良い感じ。
『正中』に戻り、「うしろより」とキッと『橋掛リ』の方を見るのも、扇を捨てて刀を抜いて『正先』に出、「二打三打」と打つ型や、「引っ組んで」での型なども、かっこよく、どっしりとした迫力が有る。
「敵はこれぞ」と刀を振り上げつつワキに寄って、止まり、「敵にては無かりけり」と刀を捨てて、ゆっくりと手を合わせて静まる変化も綺麗だった。

八田さんのブログを拝見したら、会心の出来ではなかったようだが…言われてみれば、確かに、らしくなかったけれど…ちょっとアンニュイで落ち着いた良い雰囲気に思えたのでした。。


狂言『口真似』大藏吉次郎・榎本元・宮本昇

客も主も割りと冷静な感じで、太郎冠者・吉次郎さんだけが頑張っている感じ。。
それとて、最初の酒の相手を探す主人に向かって、自分を指差す可愛らしさが一番印象に残っていて、全体に大人し目な気がした。


『羽衣・和合之舞』遠藤修・村瀬慧・(ワキツレ1人)・藤田貴覚・坂田正博・大倉慶乃助・徳田宗久

ワキ・ワキツレのどっしり目の『次第』の後、ワキは竿を後見に渡して、『一ノ松』でしっかりの『サシ』ちょっと硬い印象。。
欄干に掛かっている衣を取って、ワキ座に向かうと、幕が上がり、シテの『呼掛ケ』はしっかりだが、少しのんびりした感じ。
シテ「それは天人の」としっかりと謡いつつ登場し、「かなしやな」以降、『一ノ松』に止まって、正面を向いて、「今はさながら」と謡う様子も儚さは出ているが、ややしっかり目。
「天の原」からしっとりとして、地謡『下歌』も静か。
『上歌』「声いまさらに」でゆっくりと右を向く様子が寂しく綺麗
。舞台に入り、「空に吹くまで」と『脇正』の方に出、『シオリ』つつ下がると、そのままワキの言葉を聴き、「あらうれしや」と手を下げて、ワキの方を向く様子が、自然。
「嬉やさては」とはっきりと明るく、衣を返してもらうまでのやり取りは、堂々としている。。天人らしくも有るけれど、ちょっと立派すぎるかも。。
『物着』後もシテはしっかり目で、地謡『クリ』は、はっきり目さらりで、シテ『サシ』はしっかり、続く地謡はどっしりだが、いまいち雰囲気が出ない。
地謡『クセ』はどっしりと抑えて綺麗。
シテ「君が代は」とたっぷりな謡いで、「東歌」と『正先』に出て、『ヒラキ』までは良いけれど、下がるのがちょっとヨロヨロ。。
常座に行き、「落日の紅は」と左袖を返して『雲ノ扇』もやや硬い。
座って合掌し、「南無帰命〜」と、どっしりと厳粛な感じは良く、ゆったりと晴れやかな舞も、高貴な気配で、続く『破ノ舞』もさらりと綺麗。
しかし『キリ』はバタバタとしている部分が有って、もう少し。

悪い部分を多く書いてしまったが、全体的には綺麗で、でも、ちょっとしっかり過ぎ。。という感じ。


『春日龍神』伊藤嘉章・安田登・(ワキツレ2人)・大藏教義・成田寛人・住駒充彦・大倉栄太郎・梶谷英樹

シテはゆっくりと常座に出、「晴れたる〜」と、どっしり、ゆったり。
そのままの清浄な雰囲気のまま『上歌』まで続く。
シテはワキの方を向き、「や。これは栂尾の」と気がついた感じが自然。
「これは仰せにて」と再びワキの方を向く様子は優しいが、咎める気配が有り、「ただ思し召しとまり給へ」と『ツメ』るのも、強く留まらせようという感じ。
地謡「三笠の森の」と、さらりとして、「皆ことごとく」と『角』の方に『ツメ』たり、「上人を」とワキの方に『ヒラキ』、少し頭を下げたりは、ややまったりだが、「何処ぞと」とゆっくりとワキに寄り、「ただ返す返す」とワキを見るのは迫力がある。
シテは『正中』に座り、『サシ』はとてもどっしりと、静かな威厳がとても良い(詰まっちゃったとこは惜しかったけど)。
地謡『クセ』もどっしりと迫力が有る。「入唐渡天を」とはっきりと言いつつ、ワキの方を向き、「鷲峰の説法」と腰を上げたままワキを見ている姿が力強い。
「奉るべし」で立ち、ゆくっくりと静かに常座に行くまでは良いが、ワキの方を向くと「秀行ぞと」と小さく『ヒラキ』、「かき消すやうに」とさっと正面に『サシ』、『ヒラキ』して静かに中入はメリハリの有る地謡に対して、ちょっと忙しない感じ。。

『一ノ松』に後シテが出ると、シテも地謡もしっかりとした謡。
「和修吉龍王」での『数拍子』はあんまり迫力が無いが、『ヒラキ』は綺麗。
地謡「百千眷属」で右に回り、常座に行って座り、「聴聞する」と左袖を被くと、ちょこんと畏まるみたいで可愛いが、カッコはあんまり良くないかも。。
扇を“打杖”に持ち替え…るのにちょっと手間取っていたが、座りなおして、見渡す型とかが、さらっと通過してしまい、最後に下を見るのだけカッコ良かった。
シテ「八大龍王」とはっきりと謡い、『足拍子』しながら『角』を向いて、『舞働』になるが、綺麗だったけれど、迫力が弱い感じ。。
シテ「八大龍王は」と威厳たっぷりで、大きく動き、「明恵上人」とワキに寄りつつ右に回って座り、睨むように見ているのは良いが、その後の謡いに合わせた型はちょっと形式的に進行した感じで、「池水を」のあたりで、常座に座り、左袖を被いた姿はやっぱりなぜかカッコ良くなくって、残念。



10年3月19日  定例公演(国立能楽堂)    (感想)
2010-03-22 03:47
狂言『土筆』大藏吉次郎・善竹十郎

14日に続いて今日は『土筆(つくづくし)』。
基本的には話の展開順が違うだけだが、続けて見ると、けっこう細かい会話が違うのに気がついて面白い。
吉次郎さんはふんわりっとした雰囲気が、「つくづくし〜」と歌を詠むのにぴったり。
十郎さんは、「しゃくやくの花」を笑われて、ムキになって「ぐんなり、ぐんなり」と笑い返したり、相撲の話を持ち出したり、最後に吉次郎さんを投げ飛ばしてすっきりした!って感じなのも子供っぽくて自然。


『西行桜』片山幽雪・宝生閑・森常好・宝生欣哉・則久英志・大日方寛・殿田謙吉・山本東次郎・藤田六郎兵衛・曽和正博・柿原祟志・三島元太郎

残念ながら今日も笛が変更。一噌仙幸さん→藤田六郎兵衛さん。(一噌流の人に代わらなかったのはちょっと意外。)

ワキは『ワキ座』で床几にかけ、ゆったりと威厳が有って、アイも落ち着いて良い雰囲気。
ワキツレの『次第』はさらりで「百千鳥〜」と華やか。(メンバーが凄すぎて、仰々しく思えてしまうのが難点(苦笑))。
ワキツレたちは『橋掛リ』を一度幕の方に進んで戻り、たどり着くという定型だが、ゆっくりと踵を返した瞬間に気配が変わり、ずっと向こうから歩いてきた様に感じられたのは、さすが。
ワキ「それ春の花は」としっとりと静かに風流で、「何とて禁制の」と、とても優しく、結局花見の人を招き入れるのが自然。
「捨て人も」と、どっしり目の地謡、ワキ「面々この山陰まで」と優しく、「さりながら」としっかりして、「花見にと」と静かにたっぷりなのも綺麗。
「あたら桜の」とはっきりの地謡が続き(ワキツレはここで切戸へ)、「今宵は花の」とゆっくりと『引廻シ』が降りる。
シテ「埋もれ木の」と静かだが力の有る謡。
「尋ねんために」とワキの方を向いた視線が鋭い!
シテ「何か不審の」と再びワキの方を向いた時は優しく、「少し不審に」とはっきりと少し咎める様な雰囲気も自然。
地謡「恥ずかしや老木の」とゆったりとした謡で、シテは立ってゆっくりと常座に行くと、ワキは床几を降りて座り直し、「草木国土〜」と合掌し、すぐにシテもゆっくりと手を合わせる姿がとても美しい。
地謡『クリ』『サシ』『クセ』はどっしりと静かで綺麗だが、音程の変化が、カッチリし過ぎて、趣がない様に思う。。贅沢?
『クセ』での謡いに合わせた型は、ちょっと大変そうだったが、「浮世を厭ひし」と威厳が有って、「戸無瀬に」と『招き扇』の様に扇を下ろしつつ前に出たり、「滝つ波までも」と右を向いたりする姿には力強さがある。
「あら名残惜しの」と風情が有って、「春宵一刻」と静かに高貴な気配も素晴らしい。
舞は全体に小さめな動きだが、杖をつくと老体に相応しく、二段目の『オロシ』までの静けさと、その後の明る目で神聖な感じが良い。
どっしりの地謡で「別れこそあれ」とシテは『橋掛リ』に向かい、ワキに止められて戻ると、「小倉の山陰に」と、少し右を向いて左袖を巻き上げ、「残る夜桜の」とそのまま膝をついて、袖で顔を隠す姿がかっこいい!
シテ「覚めにけり」と謡いつつ、杖にすがって立ち、抑えた地謡「夢は」でワキの方を向いて『胸杖』する姿も綺麗で、「嵐も雪も」と手を下ろしつつ少し右を向くと、存在感が薄まって、風の中に消えてしまいそう。。
「花を踏んでは」と『足拍子』しつつ常座の方を向き、「同じく」と常座の方に回りこんで“作り物”に入ると、ワキが立って常座に向かい、シテが座って、ワキの『留拍子』で静かに終わった。



10年3月14日  月並能(宝生能楽堂)    (感想)
2010-03-21 03:02
『西王母』前田晴啓・水上優・野口能弘・高野和憲・一噌隆之・住駒匡彦・上條芳暉・助川治

シテはゆっくりと常座に出、静かにたっぷり目の謡い出し。
「面白や」とややはっきりは良いが、「いざや君に」から静かで、ちょっと寂しげに聞こえてしまう。
「いかに奏聞申すべき」とゆっくりとワキの方を向いたり、“桃の枝”を奉げる仕草は静かに丁寧で、綺麗だが、シテもワキも謡がふんわり過ぎてしまらない感じ。。
地謡「三千年に」とはっきりと綺麗で、『ロンギ』はシテは静かにたっぷりで、地謡はしっとりと美しいが、シテが向きを変えたり、回る部分でクイッと急に動く感じがやや気になる。。
ワキ・ワキツレ『待謡』は初めどっしりと良かったが、次第にダラダラした印象。
子方は『正中』へ、シテは『一ノ松』に登場。
子方がとても小さく(5歳だそうだが、5歳にしては小さい方だと思う)超かわいい!しかも、ちゃんとじっとしていたし。
地謡「面白や」とゆったりで、「孔雀鳳凰」と右の方まで見渡す様子は雄大。
シテ「いろいろの」と静かに謡い、舞台に進んで、「剣を腰に」と左腰を見たり「真えいの冠を」と頭上を指したり、桃を奉げる様子も優しい雰囲気。
しかし、舞になると、初めやや重く、2段目はさらりというより雑な感じで、微妙。最後はややゆったりと回復。
「花も酔へるや〜」と変化は少ないが、ふんわりとまずまずの地謡で、謡いに合わせた型は明るく綺麗なラスト。


狂言『歌争』野村万作・深田博治

どちらかと言えば明らかに、野村家の狂言を見る機会が多いのに、この狂言は『土筆』(大蔵流)の方がなじみがある。。
和泉流では庭の芍薬を眺める場面から始まるので、『土筆』より鮮やかなイメージ。もちろん土筆の場面に繋がるのだけれど、なんとなく印象が変わる。

シテ:万作さんはアドが詠んだ“王仁”の歌を、意味がわからなかった様な感じで聞き返して、間違いに気付いて大笑いする流れが自然で上手い。
野に出てから、足元に土筆があると言われて、慌てて飛び下がるのも、「ぐんなり」を笑われて、相撲の話を持ち出す負けず嫌いなキャラも可愛くて、ほのぼのと面白かった。


『三山』今井泰行・小倉伸二郎・石田幸雄・寺井久八郎・曽和正博・安福光雄

シテはゆったりの『呼掛ケ』で登場、『三ノ松』で正面を見、再び舞台の方に進む姿が上品。
「まづ南に」と、しっとりとした謡でゆっくりと常座に進む。
「隔もなく」とワキの方に小さく『ツメ』ると思いがこもる。
地謡『クリ』は静かで、シテは『正中』に座り、「またその頃」と静かで綺麗だが、地謡「彼のかしはでの」と抑えているがバラバラ。
シテ「里も二つの」と儚く上品で良い感じ。
地謡『クセ』はどっしり綺麗…と思いきや、だんだん微妙に。。「さるほどに」としっかり目に持ち直し、「この夕暮を」と抑えて綺麗。
シテはワキの方を向いて、「いかに申し候」と女らしく、「唯十念〜」と神妙な感じも良い。
「これまでなりや」と静かな地謡で立ち上がると、とてもゆっくり常座に行き、「あらずとて」と、さっと正面を向いた様子が只者ではない気配。

ワキ『待謡』はしっかりで、ツレはすらりと常座に出、さらりと、でも慌てている様な感じが良い。
後シテは「あら羨ましの」とたっぷりと謡い、綺麗で迫力の有る『カケリ』。
その後はシテもツレもはっきりと主張する謡で良いが、「立枝を折りて」と枝を見たり、「打ち散らし」と2人で枝を合わせたりは、様式的…そういう型なんだけど…なんとなくまったり。
「あらよそめ」と『角』の方を向いた姿はちょっと立派過ぎるが、最後に、静かに穏やかに変化したのは良かった。


『土蜘』近藤乾之助・佐野由於・澤田宏司・亀井雄二・森常好・岡聡史・内潟慶三・観世新九郎・佃良勝・金春國和

胡蝶の『次第』『サシ』はしっかりとやや重いが、「いかに誰か」からは上品。
頼光「ここに消え」と静かに弱々しい感じがとても良い。
胡蝶は『正中』に座り「典薬の頭より」としっかり目…やや硬い感じ。
「色を尽くして」と静かな地謡が続くと、シテはゆっくりと『一ノ松』へ現れる。
「月清き」と静かな謡で、渋くてかっこいい!
「御心ちは」で頼光の方に『ツメ』ると迫力が有る。
「愚かの仰せ」とはっきりで、「猶近づく」と舞台の方に進み、ズイっと常座に行くのが、動物が侵入する様に不気味。
地謡『上歌』は静かで、頼光は刀を取って立ち、シテに切りかかると、シテは避けて、“一畳台”に上がり、足元を払う頼光に、飛び上がることはなく…出来ないのでしょうね。。慎重に“一畳台”から降りて、常座で、“糸”を投げてさっと中入。
さすがに軽快には動けないし、“糸”も広がるには広がったけれど弱々しい感じ。。なのに意外と素早く走り去ったのはちょっと驚き。。

ワキは手をついて真剣に頼光の話を聞くのは良いが、「また御太刀つけの」と血の跡を見る様子は緊迫感が弱い感じ。。
ワキ・ワキツレは『橋掛リ』に並んでどっしりと余裕のある雰囲気の『一セイ』。
地謡「崩せや崩せ」でワキツレが舞台に進み、後からゆったりと舞台に向かうワキが貫禄十分。…でも地謡はあんまり迫力ないけど。。
ワキ・ワキツレが“塚”を囲み、「鬼神の姿は」と“引廻し”をゆっくりと下ろすと、シテは黒っぽい装束で、なかなか強そう。しかも、くもの巣が不均等に作って有ってリアル。
シテ「汝知らずや」と静かにどっしりと、“年を経た土蜘蛛”という謡いにピッタリ!
ワキ「その時独武者」と、どっしりと謡いつつ立ち、抑え目の地謡で、「手に手を」と3人で囲む様に近づくと、シテは「千条の糸を」と“糸”を投げるが、2個目の“糸”を手探りで捜して(?)やっと投げた感じだったので、1個で良かったのになぁ。。と思う。
「五体をつづめて」と立って倒れる様に“塚”を出る様子は、真に迫って良かったが、『舞働』の部分(『橋掛リ』でワキと打ち合って幕の前まで行って、戻ってくる)は、動くだけで大変そう。。
“塚”の横に上がり、ワキを睨む姿は凛々しいが、投げる前に“糸”が手から洩れて下にダーっと流れ出してしまったのが残念。。でも投げたら広がったけど。
「恵を頼み」とそっと“一畳台”から降りると「剣の光に」と左に回って膝をつき、「首うち落とし」で『切戸』へ下がった。

土蜘蛛が倒される場面で、地震が…!大した事はなかったけれど、そのタイミングにびっくり(苦笑)。

終演後に、聞いたら乾之助さんは『土蜘蛛』初演だったとか!
雰囲気はすごく良かったけど、さすがに動き回るのはきつそう。省略してしまえば良いのに…と思うが、そうもいかないのかな。。

ちなみに最後に『切戸』に消えるのは以前にも見たことがある。
『土蜘蛛』で見たのだが、他にも『紅葉狩』『羅生門』でもこの型が有るようですね。



『染の美』展(銀座かねまつホール) (報告)
2010-03-14 03:22
3月12日。
山口安太郎さんの装束が展示されるというので、取りあえず見に行ってきましたが…装束は『紅浅黄段扇夕顔文様唐織』の1点だけでした。
勝手にもう少し展示されてるのかと期待していただけにガックリ。
いわば普通の呉服屋の展示会に、客寄せで展示したということですね。
山口さんの作品で他には唐織の帯が展示されていて(もちろん売り物)、奥は普通の呉服屋の展示会みたいに畳に上がって着物と帯が並んでいるのを見るスタイル。
ただ、ここの展示会は係りの人が寄ってきてオススメしないのが良いですね。
単に買いそうもないな、と判断されたのかもしれませんが。。
唐織の帯は綺麗でしたが、今回の展示に有ったのは無難な模様で、いっそ装束の模様を意識した大胆なもののあれば良いのになぁ…と思いました。。いや、有ったらそれはそれで危険だ。。欲しくなってしまう(苦笑)。
ちなみにちらっと帯の値段を見たら、思ったより安いんですよね(いや、買うとなったら高いけど)、7桁に届かない程度。
それしにしても、この細かくて根気のいる仕事を100歳をこえても現役でしていたのが驚きです。残念ながら2月に105歳でお亡くなりになりましたが。。
開催は14日まで。



10年3月7日 粟谷能の会(国立能楽堂)    (感想)
2010-03-14 03:16
出演者変更:一噌仙幸さん→一噌幸弘さん

『定家』粟谷明生・宝生欣哉・則久英志・御厨誠吾・石田幸雄・一噌幸弘・鵜澤洋太郎・国川純

ワキ・ワキツレ『次第』『道行』はゆったり、のんびりの風情。
ワキツレが座り、ワキは「面白や」とはっきりで、ちょっとわざとらしいかも。。
「や、時雨が」と雨が振り出した感じはまあまあ。
シテは静かな『呼掛ケ』で、ゆっくりと登場し、『三ノ松』で立ち止まって、「これは藤原の〜」と再び歩みつつ、静かだが訴える事がある様な気配。
「古跡といひ」と正面を向くのに力が入り、「そのために」と静まっていく感じも良い。
常座に行ってからは、シテもワキもしっとりと綺麗だが、地謡はもう少し。
シテは“塚”の方を向いて、「なうなうこれなる」と静かだが迫力が有って、「式子内親王はじめは」と、どっしり目の謡いで、次第に寂しげにで、「離れやらず」と小さく“塚”の方に『ツメ』たのも良い感じ。
シテは“塚”の前に座り、地謡『クリ』は静かだが、やや聞き辛く惜しい。
シテ『サシ』は静かで、続く地謡も抑えて美しく、どっしりの『クセ』で、「色に出でけるぞ」と『シオル』姿も綺麗。
シテ「げにや嘆くと」とはっきりだが悲しげで、地謡「露霜に」とぐっと抑えた感じも良い。
地謡はさらりシテは悲しげな『ロンギ』だが、「我こそ式子内親王」と立ち上がってからは、『ツメ』たりする様子が少々強すぎる印象(高貴な感じ…とも言えるけど)。

ワキ・ワキツレの『待謡』もゆったり目だが、やや揃わず。
後シテは「夢かとよ」と暗く儚げでも、どこかしっかりとした感じ。
「古事も」と地謡はなんだか少しぶっきらぼう。。
「定家かづら」でさっと『引廻し』を下ろしたのは良かった。(しかし、私の席からは柱で全然見えない。。しまった座席、失敗だ。)
シテ「御覧ぜよ」と静かな謡で、(僅かに見える両袖の動きから、通常通りの型だと思う…ここは勝手に想像してました。)、「よろよろと」と立って“塚”をゆっくりと出、ワキに向かって手を合わせるのも静か。
「昔を」と『正先』に出ながら、遅れたように、遅めに扇を前に『サシ』たのが、弱々とした感じに見えて、良かった。
『序ノ舞』は静かに、しかし、ややしっかりで綺麗。
シテ「おもなの舞の」と静かにたっぷりで、「もとより」と、どっしりと悲しげだが、謡に合わせた型は、綺麗だが、高貴さを失わず、悲しみが弱い気がする。
“塚”の前でくるりと小さく回り、「元の如く」と“塚”に入り、地謡側に出て前に回り、「定家葛」と再び入って、反対側に出る型は、柱には手をかけず、少し大きめに回る。
“塚”に入り、「形は」と『角』の方を向いて座り、「埋もれて」と左手で扇を回すようにして顔を隠して『トメ』た。

最後は式子内親王としての威厳が有って、苦しさはあまりなく、すでに昇華された過去の物語、という感じがした。 
喜多流の“塚”を回る型は確か片側を2回、回るんだったと思うのだが、工夫…というか“はやり”なのかなぁ…一昨年の香川さんもそうだったし。。片側を回るのも好きなんだけどなぁ。。


狂言『入間川』野村万作・竹山悠樹・野村万之介

大名:万作さんは、『橋掛リ』から舞台の方を見て、川に出隔てられている感じが自然に感じられてさすが。
面白がって何でもあげちゃう調子の良い雰囲気で、冷静でしたたかな入間の人:万之介さんに、このままやり込められてしまうのではないかという場面から、一転する変化が巧みで面白かった。


『鞍馬天狗・白頭』粟谷能夫・内田貴成・金子天晟・井上大風・粟谷僚太・森常好・舘田善博・森常太郎・深田博治・高野和憲・松田弘之・観世新九郎・佃良勝・助川治

花見たちが、みごとに頭一つ分づつ大きい順に並んでいて、遠近法みたい(苦笑)。
アイの舞になると、アイが『角』に出たところで、シテは『正中』にどっかりと座り、アイが気付いて「追ったて申そう」と怒った感じが上手い。
ワキたちが退場すると(余計な事だが、一番小さい花見の子が振り向き振り向き帰って行ったのが、超かわいい!)、シテは「遙かに人家を」と、どっしり静かに独り言ちると、子方は伸びやかに声を掛け、シテ「思いよらず」と嬉しげに子方の方を向き、優しく良い雰囲気。
「いかに申し候」と静かに聞くと、子方はしっかりと答え、シテは「あらいたはしや候」と子方の方を向くのも自然で、その後の景色を見たりする様子も綺麗。
正面を向いて「今は何をか」と子方の方を向くのは、威厳が有りながら優しく、良い感じだが、「大天狗は」と子方の方を向くのは迫力なさ過ぎ。。
「さも思しめさば」と子方の前で手をつき、さっと立って右に回り、「大僧正が」と『橋掛リ』に進んで『二ノ松』あたりで足使いして雲に乗る感じはかっこいい。

後シテは大兜巾も白色で上品な雰囲気。
「そもそもこれは」とゆったりで、舞台に進み「如意が岳」と『胸杖』して見る様子や「霞と棚引き」と『正先』に『サシ』て出、膝をついたり、常座で『橋掛リ』に向かって「天狗倒しは」と“杖”を上げて招き、“杖”を落とすなど、綺麗だけれど、どっしりと言うよりのんびりに見えてしまいもう少し。
子方の方を向いて「いかに沙那王殿」とはっきりで、“羽団扇”を手にして、「聞かせ申そう」と床几にかけて、どっしりとした『語』。
床几から立ち「そもそも武略の」で前に出、『足拍子』して『角』に向かって小さく『キル』と迫力が有り、重みのある『舞働』も綺麗。
「そもそも武略の」と抑え目の地謡で、「後胤として」と『橋掛リ』に行き、『二ノ松』で「西海に」と手をあげて足使いし、『正中』に戻り、「敵を」と“幕”の方を見たり、「守るべし」と『招き扇』しつつ子方に寄ったりする様子は威厳が有って良かった。



10年3月3日  定例公演(国立能楽堂)    (感想)
2010-03-09 03:53
狂言『文相撲』佐藤友彦・佐藤融・今枝郁雄

8千人かかえよう、と言ってから2人になるまでの件が、予定通りという感じでいまいち。
新参者:今枝さんが来て、大名:佐藤さんは、大声で厳しいげな感じがわざとらしくて面白い。
文(秘伝書)を出してきて、フッとほこりを払ったり、「書いたものは便利じゃな」と暢気な様子や、相撲に負けて、「何の役に立つか」と文を破ってしまう、庶民的な雰囲気が良かった。


『雲林院』橋汎・村山弘・井上靖浩・藤田朝太郎・幸清次郎・白坂保行・前川光永長

ややかっちりとした囃子で登場したワキは、「藤咲く松も」と抑えた謡で、少ししっかりと名乗るまでは、まあまあだが、その後が平坦で締まらない。
しかも笠を被り直すのに手間取っていたのも少し気になる。

シテは、はっきりと『呼掛ケ』。どっしりと謡いつつ、ゆっくりと、しかし、しっかりとした足取りで現れ、舞台に入る直前のところで正面を向き、「や、さればこそ」と人に気がついた感じが自然。
ワキ「何とて」とさらりと言い訳をすると、シテは「さやうに詠むも」と、どっしりと風格が有って、静かに注意する雰囲気が良い。
「げに枝を」と静かだが、綺麗な部分とバラつきが有る部分とが有って微妙な地謡。
シテは「さては御身の」と言いつつ、静かにワキの方を向くと、唯の人ではない不思議な気配が有って、「その花衣を」と再びワキの方を向くと、優く変化し、「さのさま年の」とつぶやく様だが、しっかりとした気配がある。
老人らしいのに、古を思わせる凛とした気配が有ってとても綺麗な前場。
ゆっくりとした中入…し終わらない内に、後見が“桜の立木”を下げようと出てくる。。タイミングがちょっと早いかも。。

ゆっくりと常座に現れた後シテは「月やあらぬ」と抑えて…と言うより声量が落ちちゃった感じ。。
「今は何をか」とワキの方を向くのも、威厳なし。。
『クリ』「そもそもこの〜」と『大小前』に行き、『サシ』「まづは〜」と静かなシテは良いが、続く地謡がやはり揃わず。
『クセ』は抑えて綺麗で、「信濃路や」とゆったり謡うシテに、地謡は「園原しげる」と静かに次第にどっしりと続いて綺麗。
シテは「狩衣の袖を」と左袖を見、「うち被ぎ」と扇で顔を隠して、そのまま舞台を廻ったり、「降るは春雨か」と陶然とした感じで下がったり、「落つるは」右下をを見る姿が美しい。
しかし『序ノ舞』は『オロシ』での静止する姿が思案するようで綺麗だったが、全体にゆったりと言うよりもっさりとして、もう少し。
「語るともつきじ」と『ツメ』たのが、訴えかける感じがしたのは良かった。



10年2月21日  代々木果迢会別会(観世能楽堂)   (感想)
2010-03-07 03:49
『屋島・弓流・奈須与一語』浅見慈一・武田友志・森常好・舘田善博・森常太郎・野村萬斎・一噌隆之・大倉源次郎・亀井広忠

ワキ・ワキツレ『次第』は初め鄙びた雰囲気で良い感じ…と思ったが、ちょっとふんわり過ぎるかも。。
シテ・ツレは静かに『橋掛リ』に立つと、自然な謡い出し。
シテは常座に行って「一葉万里の」としっかりと綺麗だが、その後はあんまり変化なし。。
ワキがゆったりと案内を請うと、しっかりと断わるのはまあまあだが、「なに旅人は都の〜」と気が変わり、「貸し申さん」と言う場面は力が入り過ぎ。
静かな地謡で、シテは『大小前』に座り、地謡は次第にどっしりと綺麗で、「やがて涙に」と『シオル』のも美しい。
シテ「いでその頃は」と、どっしりと語り出すが、力入りまくり。。
「今のやうに」と、やや侘しげで、ツレはさらりと、シテは抑え目になって良いが、「着たる兜」と扇を広げて左手に持ち、「引きちぎって」と、後ろに引いて急にパタっと倒れる様にするのは、イマイチ。
「お馬を汀に」と、立ってからはわかりやすく、「磯の波」と呆然と見渡す様子などは綺麗。

アイは『小書』の為、長い語り。判官、実基、与一の役を身振りを交えて…けっこう動き回るが、もたつかないのはさすが…語り分ける。
若干やりすぎと思う部分も有るが、客席は明らかに前場より引き込まれてる。。

ワキは「ただいまの」とつぶやく様に自然で、ワキ・ワキツレ「声も更けゆく」としっとりと綺麗。
シテ『一セイ』はしっかりの謡いは良いが、動きは硬い。。
「くつばみを浸して攻め戦ふ」で立ち、ゆっくりと『角』に出ると、『ワキ座』の方に行って、扇を落とし、『二ノ松』に行くのは(小書:弓流)、気配が変わって良い感じ。
「その折しもは」と波を見リ感じで下を見て、「敵はこれを」と舞台に戻り、「終に弓を」と扇を取って立つと、『大小前』に戻り、“床几”に座る。
地謡『クセ』はどっしりだが、あんまり雰囲気が出ないし、シテの謡いに合わせた型も、リズムを取って1つ1つきっちり、という感じで微妙。
最後に刀を捨て『一ノ松』に行って、「春の」と『正先』の方を見、「群いる鴎」と右の方を向きつつ下がる様子は、景色の中に溶け込むようで綺麗だった。


狂言『佐渡狐』野村万作・竹山悠樹・野村万之介

はじめの内、2人の百姓のやりとりはさらり目で、流れで「いる」と言っちゃった感じ。
奏者:万作さんは袖の下を出されて、「やい、そこなもの!」と扇で床を打つのが弱めで、「持って行けと言うに」とあたりをキョロキョロと伺って、明らかに欲しそうな感じが面白い。
それでいて、狐がいるかと聞かれたら、「おるおる」と軽く答えるのも適当な人、と言う感じで良かった。

ちなみに番組表では、またしてもシテが奏者だ!
野村家ではそうなのかと国立の上演記録(84年〜09年で23回の上演。)を確認したがすべてシテは佐渡のお百姓だった。なぜ??


『卒都婆小町・一度之次第』浅見真州・宝生閑・殿田謙吉・一噌仙幸・幸清次郎・亀井忠雄

(一度之次第なのでシテからの登場に。)
重厚な囃子『次第』で、シテはゆっくり現れ、『三ノ松』で休み、『一ノ松』で正面を向いて休み、後ろを向いて上品で悲しげな『次第』。
舞台に進み、「休まばやと思い候」と笠を取って、ゆっくりと『大小前』に座る。
ワキはゆったりと『名ノリ』、舞台に向かうと、ちょうど舞台に入ったところで、シテに気付いた感じが自然。
ワキ「いかにこれなる」と静かだがしっかりと注意すると、シテは静かに、しかし、ひるむ事なく答え、『掛合い』では、シテはどんどん落ち着いて、静かになっていくのだが、だからこそいつの間にか、シテの方が諭すようになっていく様子が自然でとても印象的。
「むつかしの」でシテは立って『常座』に行き、「恥ずかしながら」とワキの方を向いて言う様子は老女らしい優しい雰囲気。
ゆっくりと『正中』に座り、「これは出羽の」ゆったりと遠い昔の事の様に名乗り、ワキ・ワキツレ『サシ』は少ししっとりで、地謡『上歌』『下歌』と静かに続くのも綺麗。
「頸にかけたる」で立ち、謡いに合わせた型も儚げなのに説得力が有る。
「袂も袖も」と左袖を見てから、笠を胸に当て、右手を重ねて隠すようにする姿が美しい。
しっかり目の『問答』で、「あら人恋しや」での『シオリ』は激しい心の叫びの様に思えた。

『物着』後はとても抑えた謡で、「袴かいとって」と少し屈む様な仕草や、「立烏帽子」と扇で頭上をさしたりと、アテ振り過ぎて気になってしまいそうだけど、そんな事もなく、すらりと進み、「一夜二夜〜」と指折り数えるところでは、“長絹”から指を出さずに数え、右を見たりしてから「九十九夜に」で、はっと左手を見るのも綺麗。
「悲しみて」と扇で胸を押さえて座り、「少将の」で立って、「憑き添ひて」と『足拍子』して、「かやうに」とワキの方を向いて座ると、少将から小町へと変化する感じだし、『キリ』の地謡も静かに綺麗でとても良かった。


独吟『熊野』浅見真高→休演


『恋重荷』小早川修・鵜澤久・工藤和哉・石田幸雄・松田弘之・曽和正博・柿原祟志・観世元伯

ワキはしっかり目だが、のんびり感のある『名ノリ』。
「尋ねばやと存じ候」と何気なく、呼び出して「いかに荘司」としっかりと言うのが自然。
シテは静かに答え、「さらばその荷を」と静かだがやる気が見える。
「げにげに美しき」と自然な様子で、「仰せのごとく」と力が入り、気迫が増すのは良いけれど、若い感じになってしまったのは惜しい。
「誰踏み初めて」と寂しげで、“荷”に寄って座り、左、右と手をかけて、身体を反らせて引く様子は形式的。
抑えた地謡で『シオリ』つつ常座に戻ると、「重くとも」と悲しみの中に、まだ諦めない思いが有るのが良いが、やっぱり若い気配。。
「立つ矢の」と“荷”を見たり、「よしとても」と空しげな謡は良く、「標芽が腹立ちや」と静かな怒りが有って、再び“荷”によって、「持てども」と持とうとして、「そも恋は」と下がって『打合せ』、座って『両シオリ』の流れは綺麗。
「恋の乱れの」と深い謡が美しく、立って、「乱れ恋に」とさっと『橋掛リ』の方を向いてするりと中入したのも良い。

アイはしっかりと報告し、ワキはしみじみ。
ツレはゆっくりと立って、『正先』の方に出て座り、「恋よ恋」と悲しげに綺麗。
「いや立たんと」と振るえる様で、本当に立てなくなっちゃった様に見える。

後シテはゆっくりと『一ノ松』に出て、どっしりの謡も、常座に進み「憂き寝のみ」と苦しげな様子も、「あら恨めしや」と『胸杖』する様子も迫力は有るけれど控え目な感じ。
「衆合地獄の」と前に出、杖にすがる様に座ったり、「思ひの煙」と静かにさらりとした地謡で、はっきりとした型もどこか寂しく、初めから女御を攻める気などなくて、攻めるフリをして気付いてもらいたがっている様な感じがした。


パンフレットがなぜか一曲終わってから配られました。。
私は初め、何も無いのかと驚いたくらいの事でしたが、隣の人が「謡本買っちゃったよ〜」(パンフに詞章が出ていたので)とがっくりしてました。。



10年2月7日  高安ルーツの能鑑賞会(横浜能楽堂第二舞台)  (感想)
2010-03-03 04:33
高安ルーツの能という事で、高安を舞台とする『弱法師』が地下の第二舞台で行われた。昼間には「八尾・高安と能の関わりを探る講座」が有ったが、そちらは失礼して(『摂待』を見ていたから)、鑑賞会のみ参加。


仕舞『井筒』山中雅志

どっしり、ゆったり目の地謡で、丁寧に舞うが、緊張しているのか、硬い感じがして、もう少し。


『弱法師』生一知哉・小林努・貞光訓義・上田敦史・高野彰

ワキはさらり…というか力が抜け気味な感じで、名乗り、『ワキ座』へ。
シテは『常座』に出、「出入の」とどっしり。
「難波の海の」と右を見るのは良いが、正面を向いて「人や知る」とぶっきらぼうな謡。(『サシ』『下歌』『上歌』省略。)
「又われらに」とはっきりと言いつつワキの方を向き、「げにやこの身は」とやや儚げだが、「弱法師と名づけ〜」はちょっと楽しそう。。
「衣に落つ」と左に回って『笛柱』の方を向いて『胸杖』する姿は綺麗だが、謡は安定しない。
シテは正面を向いて「なかなかの言」からはしっかり。
袂を持って出すとワキが注ぐ仕草は通常通りで、「げにや盲亀の」と『角』の方を見て、『笛柱』の方まで見渡す姿がかなり上向きで、遠くを見透かす様な…実際には見えていない焦点が定まっていない感じがして、良いと思ったのだが、どうやらこれは、もともと“面”のつけ方が『テラシ』ぎみになっていて、少し上を向いたら不思議な角度になってしまったみたい(苦笑)。(『クリ』『クセ』省略。)
ワキ「あら不思議や」と独り言の感じが自然で、「日想観を拝み候へ」としっかりと言うと、シテは『正中』の方に少し出てから右に回り戻る感じで、「心あてなる」と『橋掛リ』の方を向いて座って合掌(多分。見えなかった。。でもこの場所というのも悪くないかも。。今回は見えなかったが、多分常の場所より見やすいのでは??)
立ち上がったシテはしっかりと反論し、『胸杖』して「あら面白や」もしっかり。
「住吉の」としっかり目だが儚さが有り、「眺めしは」としみじみした感じが良いが、「見るぞとよ」で『打合せ』るように扇を杖に当てて開くのはいまいち意味が伝わらない気がした。
「南は」と重めにしみじみとして、「東の」とワキの方を向いて下がり、『胸杖』する姿は自然。
「かなたこなた」と左、右と『角』に進み、「貴賎の人」でぶつかった感じで下がり、杖を落として座る様子がゆっくりで、スローモーションを見ているみたいで面白かった。


ちなみに、見所は畳に座布団。舞台は少しだけ高くなっている。
今回は両サイドに高安の風景の屏風が立てられていたが、『橋掛リ』が無いので、突然現れた感じがして不思議。。

“文化庁舞台芸術の魅力発見事業”と冠しているわりには(だからこそ?)、こじんまりとした公演…もっと宣伝して、省略せずちゃんと上演して、集客すれば良いのになぁ。



10年2月7日  企画公演「英雄伝説 義経」第5回(横浜能楽堂)   (感想)
2010-03-03 03:20
『摂待』香川靖嗣・友枝雄太郎・井上真也・佐々木多門・佐々木宗生・中村邦生・友枝雄人・粟谷充雄・粟谷浩之・大島輝久・塩津圭介・高林呻二・福王茂十郎・一噌仙幸・大倉源次郎・柿原祟志

山伏たちはさらり目の登場。子方は「いかに誰か〜」ちょっと固い感じで、見渡す様子ももう少し。
義経が座を変えると、ゆっくりと幕が上がり、シテは静かに現れる。
子方の肩に手をかけて、舞台に進み、「げにや憚りある〜」と静かな謡。
「包むべき人目も」とほんの少し強く、「嫡子継信は」と再び静かだが、思いがこもって趣がある。
「十二人はこれが」と山伏達の方を向く様子は心待ちにした雰囲気。
地謡「空しくなりし」と、どっしりと抑えて綺麗な謡が続く。
ワキ「これは思いもよらぬ事を」と冷静な対応で、シテ「仰せの如く」と、とても静かで、兼房の静か目な問いに、「まづただ今〜」と思い出しながら呟くように、静かにゆっくりと答え、鷲尾に対しても淡々と、しかし確信を持って答える様子も自然。
ワキ「さてこう申す山伏は」としっかりと強い問いにも、静かに、次第にしっかりと答え、「武士よなう」と少し腰を上げて、力が入る様子がかえって老女らしくて良い。
シテは「御心強くましますぞと」で立って少しワキの方に寄って座り、「人目も」で再び立って下がり、座って『シオル』様子が奥ゆかしい。子方は「いかに祖母御前」からしっかりで、「承りて候とて」と立って見渡し、義経を見分ける場面も良い流れ。
義経が『脇座』に戻ってからは、ワキもシテも落ち着いた感じで展開し、しっかりとしたワキの『語』で、「なんぼう面目も」と沈痛なな気配。
地謡『クセ』は静かにどっしりで、「憂き身の果てぞ」で義経が『シオル』と、シテ「母はと静かに謡いつつ、扇を広げ、弁慶と義経に酌をして戻り、続いて子方が酌をして廻る様子は、さらりとした仕草だが、厳粛な雰囲気。
「さるほどに」で山伏達は立って、『橋掛リ』へ向かい、子方はさっと『橋掛リ』の方に向かって、「いかに誰か」と真剣な様子は良く、叱る様に止めるシテの様子も、愛が有って優しい雰囲気で良かった。

とても静かで良い雰囲気でしたが、シテが奥ゆかしすぎて、子方に隠れて…そして前の席の人の頭に隠れて見えない〜!もうちょっと出て〜と願っちゃいました(苦笑)。



第十一回 いけだ薪能
2010-02-26 10:07
管理人様、突然の書き込み失礼いたします。
催しの告知をさせてください。

第十一回 いけだ薪能

●日時:5月15日(土)
   開場 午後4時半
   開演 午後5時

●場所:池田城跡公園 特設舞台
      ※雨天時は池田市民文化会館アゼリアホールに会場を移し、
    開場5時半、開演6時に時間を変更いたします。

●入場料:一般 3,000円
     学生 1,000円
     小中学生 500円
   (一般・学生のみ当日は500円増)
   ※未就学児の入場はご遠慮ください。

   ローソンチケット(Lコード 57334)

●番組  仕舞
     能楽  千手(せんしゅ)
     〜火入れ式〜
     狂言  棒縛(ぼうしばり)
     仕舞
     半能  熊坂(くまさか)

池田城を背景にかがり火で照らし出された舞台、
夜空に響く謡や鼓の音色・・・。
新緑さわやかな夕暮れのひととき、あなたを幽玄の世界へいざないます。


【お問い合わせ】  
  いけだ市民文化振興財団 072−761−3131
     

貴重なスペースありがとうございました。



10年2月3日  定例公演(国立能楽堂)    (感想)
2010-02-20 03:15
狂言『節分』澤祐介・三宅右矩

高澤さんの鬼は、カッコイイ『次第』だが、基本的に真面目っぽいというか、変化が少なく今一歩。家の様子を伺う様子は可愛かったけど。。


『朝長』浅見真州・浅見慈一・馬野正基・宝生欣哉・則久英志・大日方寛・三宅右近・赤井啓三・林吉兵衛・亀井忠雄・小寺佐七

シテ・ツレは重い『次第』、抑えて綺麗な『地トリ』も良い感じ。
シテ「これは青墓の」と大人びた色気と落ち着きが有って、「それ草の」と抑え目で、『下歌』も重暗く綺麗。
「とけても」でツレ・トモは『地謡前』に行き、シテはゆっくりと『常座(少し内寄り)』に行って、3人とも座り、シテは“桶”を置いて『合掌』する。
シテは立って「不思議やな」とワキの方を向く様子が自然で、「御ゆかりとは」と懐かしげ。
「わらわも一夜の」と、やや上を見ている様な感じで正面を向くのが思い出しているみたい。
(地謡「処も逢ひに青墓の(1回目)」で後見が“桶”を引く…この位置で『合掌』は初めてだなぁと思っていたら、なるほど、ここなら“桶”を引く後見が目に付かない!)
「跡のしるしか」と右を見たり、「萩の焼原の」と見渡したりと寂しげに美しい。
シテはゆっくり『正中』に座り、静かに語りだす。
『語』は臨場感が有るが、やり過ぎずほど良いバランス。
地謡「これを最後の」と迫力が有って、「義朝」で少し左を向くと「御有様は」とガクっと膝を崩し、『両シオリ』したのが印象的。

ゆったりの『出端』で登場した後シテは「あら有りがたの」とさらり目。
地謡「吾今三点」としっかりで、その後、シテ、ワキともはっきりの謡で聞きやすい。
シテ『クリ』は伸びやかで、さっと『正中』に出つつ、左袖を返し、“床几”にかけると、『サシ』は静かだが、力が有って、続く地謡はしっかりで、『クセ』はどっしりと綺麗。
シテ「いつの世の契りぞや」としみじみとして、地謡「一切の」とテンポ良く、シテ「梓弓」と憂いを含んで抑えた謡が良い。
シテ「この世にて」としっかりで見渡す様子も、「大崩にて」と閉じた扇を左手に持って高く上げ、「馬の」と大振りな感じで手を下ろしての射られた表現など、迫力が有りつつもさらりと展開し、「憂き近江路を」と立って『常座』に行き、「雑兵の」と『角』に座り「腹一文字に」と扇で切るようにして右下を向く最後の様子も、綺麗。

前場は生身の女らしく現実感のある重さで、後場は幽霊の見せた幻らしく、さらり目の展開で、重くなりすぎるきらいのある『朝長』とは思えないくらいすっきりと見ることが出来て、とても面白かった。



10年1月30日  特別公演(国立能楽堂)    (感想)
2010-02-18 03:39
『咸陽宮』近藤乾之助・金井雄資・渡邊茂人・高橋憲正・宝生閑・大日方寛・工藤和哉・則久英志・御厨誠吾・茂山千三郎・一噌隆之・大倉源次郎・安福建雄・梶谷英樹

一同が座につくと、シテは「そもそも〜」と静かに始まり、次第に威厳が現れて良い雰囲気。(ただし、シテは少し傾いだ座り方…体調が優れないのかも。。)
ワキ・ワキツレは『橋掛リ』に出ると、「思ひ立つ」とさらり。
ワキ「山遠うしては」としっかりで、「石に立つ」と気合が入ってる!
ワキ「急ぎ候ほどに」とさらりだが、急ぐ心が伝わり、落ち着いて奏聞する由を伝える様子も、悟られまいとする様で自然だし、「雲上遙かに」と見上げる姿がかっこいい。
ワキ・ワキツレは舞台に入り、ワキ「その時荊軻〜」と広げた扇をシテに見せる様に近づくと、シテ「不思議やな」と静かだが緊迫感がある。
さっとワキとワキツがシテを押さえると、ワキは刀を取って、シテに向けるのだが…閑さん今日はあんまり怖くない。。怖い山伏(苦笑)は出来ても暗殺者は苦手なのでしょうか。。
ツレ「あらあさましや」と悲しげで、シテ「いかに荊軻」と威厳を保ってしっかりで、「琴の音を聞かず」と悲しげで自然。
ワキが刀を下ろすと、シテ「いかに花陽夫人」も、ツレ「さらば秘曲を」も、しっかりで、2人とも心得てる感じが良いが、続く地謡がふんわり過ぎて微妙。。
ワキは少し上を見て、聞いている様子から次第に俯いて眠ってしまった感じは上手い。
シテ「荊軻が」とワキの方を伺うように見、パッと両袖を返して2人を振りほどいてからはさらりと展開し、ワキはシテを追う様子も、「怒りをなして」と刀を振って怒っている感じも良く、シテも「帝また劔を抜いて」と『角』で打つ様に刀を振るとにらみが利いていた。


狂言『右近左近』茂山あきら・茂山千五郎

夫:あきらさんは地頭の家に行った気になって、小さくなる感じや、最後にしょんぼりする雰囲気が良かった。
千五郎さんの妻は、最後に逃げ回るふりをして“棒”を奪っていく流れが絶妙。


『碁』金剛永謹・種田道一・高安勝久・茂山七五三・松田弘之・幸清次郎・石井喜彦

シテはどっしりな『呼掛ケ』で、ゆっくりと『二ノ松』で止まり、再びゆっくり進んで行く姿は綺麗だが、『常座』での「隔てなき」はやや強いかも。。
「あはれその夜の」で右を見るのは過去を思い出す様だし、シテ「いかに申すべきことの候」と静かなのも良いが、「旅の心を」と『正中』の方に『ツメ』るのも迫力有りすぎ。
「あらなにともなや」と静かで、「穂に出で」と寂しさが有って、地謡「忍べども」も抑えて美しい。

アイの『語』の後、ワキ「朽ち残る」と静かにたっぷり。
(ここで、“一畳台”は出さず、“碁盤”の作り物(竹枠に布を巻いたもの)のみを『正先』に出す。)
ツレは『常座』、シテは『一ノ松』に立ち、抑え目の『一セイ』。
ワキ「不思議やな」の問いに、シテはしっかり、ツレは優しげに答える。
地謡「浜の真砂の」で移動し、シテは『大小前』、ツレは『地謡前』で“床几”にかける。
地謡『クリ』はしっかりで、シテ『サシ』は抑えながらも伸びやか。
地謡『クセ』はどっしりとして、「僅かに」でシテは立つと、謡に合わせた型や『足拍子』がしっかりで、「箒木の巻の」で、少ししっとりするものの、ちょっと男っぽい感じ。。
「急いで碁を打たうよ」でツレも立ち、2人は“碁盤”の左右に座る。
「まづ、一手二手」と綺麗な地謡で、閉じた扇を立てて持つと、碁を打つ姿は2人とも綺麗。
シテは「十市の里の」で顔を上げてツレを見、“碁盤”を見つめて静止し、「百度千度」とさっと立って下がり、右に回って『常座』の方にゆっくりと行くのが、負けた事がわかりやすく、美しい。
しかし舞は最後でやや女らししさを感じるものの、“素”の永謹さんという感じがしてしまい微妙。
シテ「空蝉の」とやや憂いを含んでたっぷりと綺麗だが、「聞こえ恥かしとて」で『一ノ松』に行くのは乱暴な感じがする。
「見しこそ愛の」で、シテ、ツレが擦れ違う瞬間に、嫉妬するような視線を投げた感じがして印象的だった。


『碁』は初見でした。過去の上演の写真では本物の碁盤を使っていましたが、今回のように“作り物”の方が風情が有る気がします。
耕漁の版画には“一畳台”の真ん中に“小宮”のせて、その中に“碁盤”を置いた図が有って、良さそうに思っていましたが、“碁”を打つ場面はかなり雅な雰囲気になっても、その短い時間の為に、それが有るのはちょっと邪魔になるんだなぁ、と実際の動きを見て思いました。



10年1月17日  金春会(国立能楽堂)    (感想)
2010-02-11 03:39
『小鍛冶』櫻間金記・野口能弘・(ワキツレ)・山下浩一郎・中谷明・幸清次郎・佃良勝・小寺佐七

シテの『呼掛ケ』は不思議な雰囲気が有って、ゆっくりと舞台に進むみ、「地に響く」と『ツメ』ると迫力が有る。
ゆっくりと『正中』に座るが、地謡『上歌』は少し忙しい感じ。
シテ「その後」と静かで、『クセ』もどっしりとして、景色を見る姿も綺麗だが、寂しげな感じがした。
腰を上げて、「尊は剣を」とはっきりと言いつつ、刀を抜いて立ってからは、シテはやはり不思議な威厳が有って、迫力は弱くても良い感じなのだが、地謡がバラバラ。。囃子も若干微妙な気が。。
ワキは“台”に上がると、「宗近勅に」と静かにどっしりと雰囲気が有って、地謡「願はくは」とさらり目だがマズマズ。
しかし「頭を地に」で頭を下げるのはいかにも型、という感じ。

後シテはの『舞働』はさらり目なのにちょっと硬い。
“台”に乗って「ちやうと打つ」と打つ様子は、力強さが良い。
しかし、その後、ゆったりの部分は威厳があって綺麗だが、早い部分はぎこちない感じがしてもう少し。


狂言『佐渡狐』小笠原匡・野村扇丞・野村萬

小笠原さんの佐渡の百姓は初めから少し怒りっぽい感じで、狐がいると、勢いで言ってしまう感じ。
奏者:萬さんは袖の下を出されて、「持って行け!」と言いつつ、そっぽを向きながらも、早く入れろ!、という雰囲気がとても良い。
狐がいるかと聞かれて、勿体つけるように「いる」と言ったり、佐渡の百姓が「尾はない」と言ってしまって、コケるところなど、かなり大振りなアクションで面白かった。

念の為書いておくと、番組表ではシテが萬さんでアドが小笠原さん、小アドが扇丞さんになっていました。
急遽変更になったのか、番組表が違うのか、野村家では奏者がシテ…なんて事はないか…ちょっとナゾです。


『楊貴妃』山井綱雄・高井松男・野村太一郎・藤田朝太郎・観世新九郎・安福建雄

ワキはとてもどっしりとした『次第』で、『道行』は静かだが、「有りし教えに」としっかりで、やや重い印象。
シテは静かな謡い出しで、「九華の帳を」と『引廻シ』が下りると、悲しげな気配。
ワキは丁寧に話しかけると、シテ「げにげに汝が」とワキの方を向く様子が上品で優しげ。
「訪ふにつらさの」とゆっくりと右に向くのは、プィっとそっぽを向いた様で可愛い。
「これこそ」と“天冠”を見せ、「思い出づるぞ」と暗い感じは良いが、「今洩れ初むる」での『シオリ』はやや硬い感じ。。
『物着』で“天冠”をつけると、『何事も」と寂しげで綺麗な謡。
シテ『サシ』は静かだが高貴な気配で、続く地謡はどっしり、シテ「さるにても」と抑えた謡で扇を広げるまでは良いが、その後の型は重心が高い感じがしたのと男っぽさが垣間見えて、惜しい。
ゆったりと明るめな『序ノ舞』でちょっと気が強そうな印象。
「さるにても」と寂しげに『招き扇』して、地謡で右を向くと、扇を上げてから、体に付けるように寄せ、「恋しや」とわずかに俯く姿が美しい。
“作り物”に戻って扇で顔を隠してゆっくりと座るのも沈み込む様に静かで綺麗なラスト。


『角田川』辻井八郎・辻井美遊・殿田謙吉・(ワキツレ)・槻宅聡・鵜澤洋太郎・安福光雄

シテはスルリと『一ノ松』に登場して、「人の親の」としっかり目な謡。
猛進するような『カケリ』で、子供に会いたい感じがよく出ている。
「これは都〜」からやや悲しげ。
はっきりとワキに声を掛けると、「日も暮れてある舟に」と、ワキの方を向く様子は怒った感じで、「隅田川の渡守とも」と嫌味っぽい言い方も自然。
その後、シテは静か、ワキはしっかりと話し、「思えば限りなく」と見渡し、“笹”を捨てて、座り、「乗せさせ給へ」と手を合わせるのは真剣で迫力が有るが、力が入り気味。
船中でのワキ『語』はしっかりで、「父には後れ」あたりからシテは力が抜ける様に俯き、「つひに終わって候」とゆっくりと『シオル』と、暫しそのままで「なう船頭殿」と、とても暗く、「今の物語は」と手を下げると、次第にはっきりと、詰め寄る様な感じで、再び悲しげになると、「これは夢かや」とちょっと腰を上げてすぐにドスンと落とし、『シオル』のが印象的。
すっと立って『角』から“塚”の方を向き、「今までは」と暗く重い感じも、「かへして今一度」と“塚”に寄って座るのもわかりやすい。
“鉦鼓”を受け取ってからは静かで、子方の声を聞いて「いかに人々」とはっきりだが、その後は伸びやかな子方、静かな地謡も綺麗だったが、シテは陶然と全てが夢の様で、綺麗だけれど、おぼろげな印象。



10年1月11日  梅若研能会(観世能楽堂)    (感想)
2010-02-04 03:53
『翁』梅若万三郎・梅若久紀・三宅近成・前田晃一・小野寺竜一・幸清次郎・幸正昭・森澤勇司・大倉慶之助


万三郎さんの翁はその清浄な大気を隅々まで行き渡らせる様な、包み込む様なパワーが凄い。見所が一気に引き込まれるのには毎年驚かされる。近成さんの三番叟も力強く大きな型でも、軽快。地謡も綺麗で文句なし。


狂言『佐渡狐』三宅右近・三宅右矩・高澤祐介

またしても“百姓物”。こうして3連続だと、『餅酒』と『筑紫奥』の前半(納めるまで)は、納める物が違うだけで、まったく同じ。『佐渡狐』はその省略形に狐の話しを挟んだものなのだなぁと、今更ながら気がつく。

右近さんの佐渡の国の百姓は「狐は〜」とちょっと迷ってから「ある!」と答えるのに負けたくない気持ちが良く現れていた。
奏者に狐いると言われてほっとしたり、(賄賂を渡していても不安なのね。。)。
納得がいかない越後の百姓:右矩さんも自然で、「鳴き声は?」と我ながら良い思いつきだなぁ、と思っている感じが良かった。


『熊野』梅若泰志・青木健一・村瀬提・(ワキツレ)・成田寛人・幸正昭・大倉三忠

呼び出されたシテはゆっくりと登場して、重い謡。「
なに朝顔と申すか」とツレの方を向くのは少し明るくて驚きがあり、“文”を受け取って読んでいる視線の流れが綺麗。
『正中』に座り、「老母の労り」と控えめだが、はっきりと言うと、「そと見参に」と立って一歩ワキに寄って座り、しっかりとした『文ノ段』は次第に暗く悲しげ。
「今はかやうに」とはっきりと意志を示したのはこれはこれで、良いけれど、「ただ御暇を賜り候へ」と『シオル』のは悲しげには見えない。。
ゆっくり、呆然と車に乗り、「名に清き」とたっぷりで、「東路とても」と少し右向く姿が上品で、「なつかしや」と『シオル』と、その手を下げる姿に悲しさを感じた。
その後、謡いに合わせて景色を見るのも自然。
呼ばれたシテはゆっくりと立ち、常座へ。
「なうなう皆々」と気高い感じで、『正中』に座って『シオリ』も、暗い地謡『クセ』もなんとなく形式的で、「南を遙かに」と静かだがやや明るく、お酌をする様子も楽しんでいる感じがした。
ワキ「いかに熊野」で『シオリ』つつ『二ノ松』に行くのは、気分を害した様。
舞は初めはやや重く暗い気配だが、次第にさらり。
「なうなう俄かに」と暗めな発言も、「あら心なの」と『足拍子』するのも、どちらかと言えば、いい所で何で降ってきちゃうかな…楽しんでたのに…という感じ。
文を書く様子はしっとりと綺麗だが、その文を扇にのせて渡す様子は不機嫌な感じで、いろいろ思い通りにならないのが、悲しさよりも苛立ちとなっている感じがして…気が強い女という印象で、悲しい感じがあまり無かった。


仕舞『草子洗小町』梅若紀長

地謡はどっしりと綺麗。シテはゆったりで綺麗だが、少し単調に思える部分も。。


仕舞『西行桜キリ』梅若万佐晴

「夜はまだ深きぞ」のあたりの重厚な感じや、「夢は覚めにけり」と呆然と立つ様子は良いが、「散り敷くや」と扇を下げる部分だけ急に直線的な感じがしてしまい惜しい。


『岩船』古室知也・大日方寛・(ワキツレ2人)・寺井宏明・森澤勇司・大倉栄太郎・林雄一郎


シテは『早笛』で颯爽と『一ノ松』に現れ、しっかりとした謡。
「御世にいでて」と常座に進むまでは良かったが、「引けや岩船」と舞台を廻り、『サシ』たりは、綺麗だけど、もう少し力強さが有っても良かったかも。。
最後はさらりと爽やか。



10年1月10日  自主公演能(喜多六平太記念能楽堂)    (感想)
2010-01-30 03:38
『翁』高林呻二・野村萬斎・高野和憲・槻宅聡・鵜澤洋太郎・古賀裕己・田邊恭資・佃良勝

高林さんの翁は、ゆったりでも力強さが有って、美しさとは違う、男っぽい安定感が不思議な魅力。萬斎さんの三番叟はなれたものって感じで、一番堂々としてる印象。余裕が有りすぎて軽快な『揉ノ段』がゆったりだと錯覚してしまうほど。。


狂言『筑紫奥』野村万作・石田幸雄・野村万之介

なんだかデジャヴのように同じ展開。。前半が『餅酒』とそっくり同じだ。久々に見たので忘れていました。。

万作さんの丹波の百姓は前半大人し目だったが、大笑いしれて怒られるのが自然で、笑えと言われて困った様子や、半分笑う表現が最高。


『羽衣・霞留』内田安信・宝生欣哉・則久英志・梅村昌功・中谷明・亀井俊一・柿原祟志・助川治

“作り物”は出さず、欄干に“衣”をかける。(霞留の定型)
ワキが“衣”を取って舞台の方に進むと、シテは幕の中から静かに『呼掛ケ』。
登場後も寂しげに静かな印象で、「あらうれしや」でワキの方を向いたのが、早く返して!と催促する風で良かったが、その後もパッとせず、天人というより普通な女という印象。(ちなみに記憶は曖昧ですが、“衣”を受け取ると正面を向いて、「乙女は衣を取り返し」とセリフが変わり、「舞ふとかや」とワキの方を向いてから物着になった。たぶんこれも霞留の定型)
シテ『サシ』の謡は大人し目だが、動きは明るく、落ち着いた地謡『クセ』も綺麗。
「蘇命路の山を」と『雲の扇』は晴れやかで、扇を閉じて『合掌』すると、「南無帰命〜」と静かで厳か。
ゆったりとした舞は次第にさらりと、綺麗だが、少し物足りないくらいかも。。(舞が1箇所だし。)
地謡「東遊のかずかずに」とはっきり、どっしりな謡いで、「七宝充満の」と『招き扇』しつつ『正先』に出て、「ほどこし給ふ」と扇を左手に持ち替えて、前にゆっくりと落とす姿が美しい。
「さるほどに」で両袖を返して『橋掛リ』に向かい、袖を戻して「三保の」と正面を向いて、「浮島が」と再び幕の方に進んで「雲の」と『二ノ松』で右に回って左袖を返して正面へ『ツメ』、「富士の」とゆっくり左に回わりつつ袖を戻して、幕の方に進み、「天つ」と左袖を被いてそのまま幕に入る。
地謡は「まぎれて」とゆっくりと謡い、「失せにけり」は謡わず、囃子だけが残り、ワキ留。(小書:霞留)

余韻のある最後はとても美しかった。久しぶりに見たけれど、この『小書』良いなぁ。。


仕舞『草紙洗小町』友枝昭世

しっかり目の綺麗な地謡。ゆったりと舞う姿は、良いところを繋いだVTRの様に、綺麗過ぎて現実感すらないかも。。


『船弁慶』塩津哲生・金子天晟・宝生閑・高井松男・大日方寛・深田博治・一噌幸弘・森澤勇司・亀井広忠・古谷潔

ワキがシテを呼び出すと、シテは「あら思ひよらずや」と言いつつ女らしい様子で現れる。
「頼みなきは人の心なり」と悲しげな感じも良い。
『正中』まで行ってワキの方を向いて座り、「さては誠に」と寂しげで、「いやとにかくに」とやや強めな言い方も自然。
「涙にむせぶ」と『シオル』とワキは「これを召して」と“烏帽子”を渡す。(物着)
ゆっくりと立つと「その時静は」とはっきりだが空しさを含むが、「郵船は」と『正先』に出るとちょっと気持ちが切り替わった感じの『イロエ』。
シテ『サシ』は静かだがはっきりで、「かかる例も」とたっぷりで、「なきよしを」で子方の方を向いたのが訴えるようだった。
ゆっくりとした舞は艶かしいような、離れがたい思いがまとわりつく様なイメージから、相手を思いやる優しい雰囲気に。
シテ「ただ頼め」と寂しげで、「かく尊詠の」と子方の方を向いて、「船子ども」と思い切る様にさっと右に回り、すっと『一の松』まで進むと、「勤め申せば」と振り向いて戻り、「静は」と『シオリ』、常座に座って烏帽子の紐を勢いよく引いて取り、烏帽子をゆっくりと下に置くのが、揺れる心を見事に表していた。
「涙にむせぶ」と子方を見つめるのも切なげで、力を落とす様にゆっくりとした中入が哀れ。

アイが“舟”を持って駆け込むと、子方、ワキツレが“舟”に乗り、ワキはゆったりと乗り込む感じが良い。
船中のアイはメリハリが有って上手く、「あら笑止や」と立ち上がったワキの目線の先に波が見える。
しかし残念な事に子方は何を言ってるのかさっぱり。。
常座に現れた後シテはどっしりの謡で、「あら珍しや」と前髪を掴んで子方を見る様子が、怨霊というより知盛としての威厳を感じた。
「あたりを払い」と『角』に出て、足使いをして、長刀でつく様に子方の方に寄ったり、その後再び子方に寄って、子方が長刀を掴んでにらみ合う様子も、ワキが間に入ってそれを睨む様子も、迫力が有って、テンポが良い。
「また引く」で幕の前まで行って、「跡白波とぞ」と回って膝をつき、「なりに」とゆっくりと右を向く様子が観念して消えていった様だった。

塩津さんは最近揺れてしまう事が有って、今回も所々揺れていたが、今回は全然気にならなかった。
個人的に『船弁慶』は観世流の型が一番だと思っていたが、(もちろん喜多流も過去に見ているが)今回の舞台を見て、考えを改めるくらい面白かった。



10年1月6日  定例公演(国立能楽堂)    (感想)
2010-01-29 03:38
『邯鄲・置鼓』粟谷明生・内田貴成・森常太郎・殿田謙吉・森常太郎・大日方寛・舘田善博・則久英志・野村萬斎・松田弘之・曽和正博・白坂信行・観世元伯

常の様に“作り物”が出ると、小鼓方のみ床几にかけ、笛と小鼓の囃子が入る(小書:置鼓)。
今日は『翁』の上演はないが、『翁』の後の脇能の体。だからと言って、アイは重くなることなく、自然な登場で、しっかりとした話し振りが、不思議な宿の主人に相応しい…不気味さではなくて神聖な印象なのは『置鼓』だからだろうか。。

シテはゆっくりと現れると、「浮世の旅に」と暗い雰囲気。
「住み馴れし」としみじみとして、「野暮れ」と右の方を見るのも良い雰囲気。
シテは大人し目に案内を請うと、アイはしっかりとした対応。
シテは床几に掛けてからも大人しく、「我人間に」と過去を思いおこす様な…迷いの中にある人という感じ全開。
シテが枕に臥すとワキは静か目に“一畳台”を叩いて起こしたのが、敬意を払った様にも思えて、これはこれで良いかも。。
シテ「思ひ寄らずや」と不思議そうにしているが、すぐに嬉しそうな雰囲気になり、「心地して」と立つ様子が、「待ってました!」と言わんばかり。
子方、ワキツレが並ぶと、シテはそちらを向いて座ると、既に威厳たっぷりで、「東に」「西に」とそれぞれ指し示しすのははっきりとわかりやすい。
「我が宿の」とたっぷりの地謡で、シテは“掛絡”を取り、“団扇”を持つ。地謡が終わると、子方は『切戸』へ下がり(たぶん)、ワキツレは地謡前に移動して座る…これは見やすい!特に脇正からだと大臣たちの背中を見なくてすむ!
『楽』は、初めは柱があるとは思えない大きな型で、ゆったりと余裕がある。
次第にさらりとメリハリをつけて、再びゆったりとしたら、柱を掴んで、下を見、ゆっくりとした『ソラオリ』。
足が下につくと、サッと足を高く上げて、そのままのポーズで暫し静止。
外に出るとさらりとして、全体に楽しげ。
シテ「いつまでぞ」とたっぷりで、さらりとした地謡が続き、「月人男の舞なれば」でゆっくりと常座に行くと、ゆっくりと舞台を廻り、『大小前』から『正中』へ出、勢い良く、左袖を巻き上げて、そのまま右に回りつつ袖を戻してゆっくりと『大小前』に戻る…(小書:働)。
「雲の羽袖を」とゆったりで、この後の謡いに合わせた型も、明るく、豊かなイメージで華麗。「春夏秋冬」で『二の松』に行って左右を見たり、「不思議やな」と座って欄干に両手を掛けて、眺めている姿も自然で、長い時間が流れた感じが有った。
地謡「頃去れば(2回目)」でゆっくりと立つと、「真は夢の」と袖を返してすぐに戻したり、『一ノ松』で「従類眷属」と首を振って、舞台の方を見るのは迫力が有るがさらりと進んで、舞台に戻り、『拍子』を踏んで飛び上がって横になる。
アイに起こされたシテはゆっくりと起きて、呆然とした雰囲気。
「さばかり多かりし」と寂しげで、「松風の」とむなしげに見渡したり、『シオル』様子も自然。「一炊の間なり」とややはっきり言って、膝を立てて、膝の上に両手を乗せて「つらつら人間の」と、しみじみと状況を理解した感じもわかりやすく、最後に“枕”に感謝するのも、正月公演らしい、爽やかな素直な内容で良かった。


狂言『餅酒』野村万之介・石田幸雄・野村万作

初見の狂言だったが、前半はどこかで見たような…年貢を納めにいく二人の百姓のやりとりって同じパターンなのね。。
最後は舞って終わる展開は、縁起が良くて初会らしいけれど、ストーリーとしては『佐渡狐』とかの方が面白いかも。。万之介さんは味が有って、雰囲気ばっちり。
万作さんの奏者は御前に報告する時に緊張感が有って、登場しない領主の存在感を感じさせるのはさすが。


国立の公演で能、狂言の上演順はなんとなく違和感があるし、『翁』なしなのに、『翁』の後のように上演するのもなんかヘン。
試行錯誤の結果かもしれないけれど、あんまり効果的な工夫ではなかった気がする。。



公演情報等
2010-01-13 23:27
兎谷 様

 お久し振りでございます。本年も何卒宜しくお願い申し上げます。

 川崎能楽堂での定期能の情報がアップされておりましたので、お知らせ致します。私は神奈川県内での観世流宗家筋の舞台はなるべく観に行くようにしておりまして、今回も楽しみに待っているところでございます。

  http://homepage2.nifty.com/k-bunkazaidan/teikinoh/index.htm

 また、ワキ方福王流の村瀬純師が公演先のシンガポールで亡くなられたそうです。新聞報道の他、ワキ方能楽師の方々のブログに載っておりました。現在のお上による文化・芸術の切捨て計画が進行中、恐らくはご心中穏やかならざるところ、無念の客死であられたろうと拝察します。
 謹んでご冥福をお祈りする次第です。


※平成22年1月15日追記 公演情報A

  第168回「昭門會」(平成22年2月13日 土曜日 於・観世能楽堂)
   http://kanze.k-jp.com/bangumi/bn201002.htm
   (故村瀬純氏のお名前が載っております)

お久しぶりです。

2010-01-14 04:03
関東者様

こちらこそ、本年も宜しくお願いしたします。

さっそく、公演情報ありがとう御座います。
実はいろいろ停滞していて、大量の公演情報が更新されていない状況です。なので、各サイトのチエックも滞っていたので、お教えいただき助かりました。
なるべく、早く更新します。。

さて、村瀬さんがお亡くなりになったこと、知りませんで、大変驚きました。
まだお若いのに、とっても残念です。
ご冥福をお祈りいたします。